校長挨拶

第25代 校長 古山 雄一

 

はじめに
全国の国立の高等専門学校(高専)が2004年に独立行政法人国立高等専門学校機構に束ねられてから20年が経過しました。それら国立高専のひとつである鳥羽商船高等専門学校(鳥羽商船高専)は大学・短大と同じく高等教育機関として、高校から大学2年次程度までの一貫教育の学修を通して、高度の技術者育成を目的とした専門教育を行う学校です。国内では「高専」、また、海外では「KOSEN」として知られており、世界に例のない、そのユニークな教育制度が日本の産業界はもとより、国際社会からも高く評価されています。

本校鳥羽商船高専は長い歴史のある学校で、明治時代の6大教育家のひとりである校祖近藤真琴翁(右下写真 本校蔵)が明治8年(1875年)9月に芝新銭座二番地(現在の東京都港区浜松町)に航海測量習練所(後の商船黌(こう))として創基し、その分校として、明治14年(1881年)8月20日に三重県鳥羽町に鳥羽商船黌として創立されました。その後の変遷を経て、昭和42年(1967年)6月に国立鳥羽商船高等専門学校となりました。
そして、来年の令和7年(2025年)9月に創基150周年・高専創立60周年を迎えることになります。

高専は創設当初は中堅技術者の養成を目的に創設されましたが、時代の変化と社会の要請に応え、15歳の中学卒業生を受け入れる本科5年(商船学科は5.5年)の一貫教育の先に、産業界への就職だけではなく、国立大学等への大学3年次編入や高専の専攻科進学の道が選択でき、さらに他大学への大学院進学など、まさに多様な進路が選ぶことができ、望めばより高い教育を受けられます。実践性と創造性を備えた地域と世界の両方で活躍できる科学的思考を身に着けた高度の技術者の育成に努めています。日本での技術創造立国をまさに支えている高専卒業生たちのめざましい活躍は、15歳からの一貫教育に基づく早期専門教育が実証するところです。

商船学科と海事システム学専攻
本校は商船学科(5.5年、准学士の称号授与)と専攻科海事システム学専攻(2年 学士(商船学)の学位取得可)を擁しており、商船系高専4校とともに国家政策である船員養成の使命を有しています。周りを海に囲まれた日本は世界第8位という広大な排他的経済水域を持ち、海上輸送によってそのほとんどの資源物資を海外から輸入し、生産技術やシステム構築により、付加価値の高い製品を輸出して経済を発展させてきました。最近は、技術移転により、多くの生産拠点が海外に移り、製品も輸入量が輸出量を上回る時代へと変化していますが、今でも日本の貿易物資の99 %以上(重量ベース)が「船」で運ばれています。また、内航海運も貨物輸送では重要な役割を担っています。商船高専は、我が国の物流を支える最新で高度な技術を習得した海事技術者、海技士資格をもつ海のスペシャリスト、海洋立国を支えるグローバルに活躍できる人材を育成するという点において重要な使命を持っています。特に海運業界は、温室効果ガス排出削減に向けた代替燃料への転換などの環境問題、自動運航船や洋上風力発電などへの事業展開など急速な技術革新とともに大きく変貌しつつあります。活躍する舞台、求められる能力も船上だけではなく、最先端技術の展開や海運にかかる総合的スキルを活かしたマネジメント力に大きな期待が寄せられています。

情報機械システム工学科と生産システム工学専攻
平成31年(2019年)に改組により情報機械システム工学科(5年、准学士の称号授与)として、急激に変貌し進化する情報工学の分野の高度技術者としての育成に取り組んでいます。また、専攻科生産システム工学専攻(2年、学士(工学)の学位取得可)には、本校はじめとして、他の高専の本科を卒業して進学した学生が在籍します。改組後の取り組みとして、まず、プログラミングを始めとする工学基礎を学び、この分野の基盤となる「情報」「電気電子」「機械」について系統的に学習し、上級学年では自らの個性や特性に合わせて「専門性」「志向性」を決定するオーダーメイド型カリキュラムを提供しています。
地域課題を解決するPBL(Project Based Learning)チームに一貫して1年生から所属し、机上の学習に留まらず、地域産業や文化を理解し工学的な解決法を提案できる実践的技術者を目指します。また、地域や社会と一体となったコミュニティ型の教育を導入しています。本科を卒業して准学士の称号をもって就職することや大学3年次編入、また専攻科進学者として、さらに2年間修学して学位(工学)の取得も可能です。
経済のグローバル化、機械、電気・電子、情報産業技術の高度化、さらにはデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速的に急進展する現在、国の教育振興基本計画の今後の目的としても、スマート社会の実現に向かうイノベーションに対応するため、数理データサイエンス・AI、ロボット等の分野での「実践的・創造的な技術者の育成と起業精神の充実」や「社会実装教育」、「地域への貢献」、「国際化の推進」が要請されています。情報機械システム工学科はソフトとハードを結ぶ教育を基盤にそれらの要請に応えます。

本校は全ての学生が心すべき三つの教育目標を掲げ、人間力にあふれた、創造性豊かで国際的に通用する、高度な実践的技術者の育成を行っています。

一つ、人間性豊かな教養人となること
二つ、創造性豊かな技術者となること
三つ、国際性豊かな社会人となること

そして、本校では、大学と同じく卒業研究があります。理工学的知識を基礎に持つ高度技術者はその入学当初から科学的思考を身に付ける必要があります。卒業研究では今まで誰も知らなかったこと、試されなかったこと等に挑みます。つまり、どんな結果となるのかが誰も知らないことに挑戦するのです。未知の分野への探求は、その対象がどんなものでも共通したアプローチ方法があります。これを学ぶことにより、社会に出た際に未知のことに対してどのようにアプローチするかを知っており、対応できる力を持つようになっています。
本校では、「よく学びよく遊べ」の方針があります。そして、先輩・後輩や同級生仲間とともに青春時代をはつらつと学び、かつ楽しむことを奨励しています。ロボットコンテスト(通称ロボコン)、プログラミングコンテスト(プロコン)、ディープラーニングコンテスト(DCON)などの仲間との諸活動、また心身を鍛える体育系クラブ、さらに文化系のクラブや同好会の活動のほか、さまざまな課外活動に積極的に参加することを勧めています。

入学後の修学と学生生活については、学校と学校の応援団である保護者各位との緊密な連携のもと、担任教員はじめ各主事室が事務部と連携して対応しています。女子学生数も、約660名の全学生のうち118名を超えており、個性の異なる多様な学生が勉学や実験・実習を共にして協働することで新たな価値や発見を互いに学ぶ環境が整っています。

教育の場として位置付けている学生寮「暁(あかつき)寮」では、教室やクラブ活動とは違った共同生活の場を経験します。集団と個の行動が調和した「規律ある充実した楽しい学生生活」が送れるように環境を整備しています。外国からの留学生も在学しています。教職員一同、明るく活気あふれるキャンパスづくりに努め、個々の学生自身が持っている力を引き出し、伸ばし、高めていく所存です。

進取・礼譲・質実剛健を理念とする本校の入学式の式辞では、他人を思いやり、志をたて進むよう話をしています。そして何よりも優しい人になってもらいたいことを伝えています。

令和6年4月30日 鳥羽商船高等専門学校長 古山雄一

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